道重さゆみ卒業公演リポートという名の2014年の娘。たちへの雑感と2015年のハロー!プロジェクトへの期待のようなもの

今回は、雑誌『B.L.T』のハロプロ担当、『ハロプロ丸わかりBOOK』の制作編集者として知られる、よーいしかわこと石川洋さんにご寄稿いただきました。伝説となった道重さゆみ卒業コンサートから1ヶ月。今更ながら何か書きたい、とおっしゃる氏に、思いの丈を綴っていただきました。ハロプロのダイナミズムとモーニング娘。の成長を間近で見守ってきた氏ならではの、熱い気持ちと温かい視線、また「伝説の卒コン」の臨場感あふれるリポートをお楽しみください。(まえがき・宮元望太郎)

道重さゆみが足を持ち上げ靴を触った。そしてメンバーが花道を駆け出すもメインステージに彼女だけが残されたその瞬間、僕は2011年の春ツアー「ファンタジーDX」の大阪~座間公演を思い出さずにはいられなかった……。

* * *

 2014年11月26日。
「モーニング娘。’14コンサートツアー秋 GIVE ME MORE LOVE ~道重さゆみ卒業スペシャル~」。
開始早々、満員の横浜アリーナは彼女のイメージカラーであるピンクに染まっていた。

道重さゆみのラストステージとなるべく始まったライブであったが、卒業公演としてだけでなく、ツアーの最終日としての完成度も高いものだった。道重体制下のEDMナンバー中心に構成されたセットリストは近年のヒット曲を網羅し、全日程中3パターンあったメドレーは千秋楽に相応しく総集編とも言うべきロングバージョンに。それ以外のどの曲においても公演数を重ねたメンバーのパフォーマンスは最終型に達していたし、迎え撃つ満場のファンも準備万端であったろう。

しかしこの日、誰よりも準備万端だったのは他でもない、道重さゆみだ。

ゲストとして舞台に登場した初代リーダー中澤裕子から「かわいいね」と言われた彼女は、かつてのハロモニでのからみを思わせるあのお調子口で「かわいさのピークを今日に合わせてきた」と返したが、これについてはこの日の彼女を目にした全員が納得する事実だったであろう。
卒業公演らしく、何度も大型スクリーンに映し出される道重さゆみの笑顔は圧倒的に美しかったし、見る者を蠱惑するかのごとき色気、ステージを支配するような不敵で妖しい表情も交えながら、結局のところ終始かわいかった。

そして卒業を発表した際に彼女が口にした“最高にかっこいいモーニング娘。”に仕上がった9人。

元々の歌唱力に加え、最近では高橋愛を思わせる余裕のある発声や歌い回しをも感じさせる小田さくらは、この大舞台にも特別な感情などまるで持たないかのようにゆるぎない安定感で美声を響かせる。

芝居などでの評価を新たな推進剤にして表情や身体表現が加速度的に向上中の工藤遥。少年を自称しながらもそれらの表現や成長期真っ盛りのビジュアルが相まって、隠し切ることのできない女性的な魅力が発露し、時折ドキっとしてしまう人も多いのではないだろうか。

ある時期失いかけていた弾ける笑顔を完全に取り戻し、本来の声質の良さと歌唱力、瞬発力を持ったダンスなど、もともとのポテンシャルを発揮し始める鈴木香音。ユニゾンに厚みを加え、要所で聴かせるソロには説得力も見えてきた。

加入からしばらくの間はどこか人と距離を置いて見える性格からか、ややもすればその魅力を発揮しきれていなかった感もある石田亜佑美は、築き上げてきた同期との友情や、先輩や後輩に対し真っ直ぐな感情をぶつけられるようになったことにより、ステージ上でも表現全般に深みを増した。

佐藤優樹の潜在能力の高さはファンならば知らぬものはないと思うが、いかんせん自分をコントロールすることがあまり得意ではないらしい。しかしこの日は大好きな“みにしげさん”を笑顔で送り出す、という最大の自律が働いていた。そういう意識が一本通った日の彼女は歌であろうがダンスであろうがある意味無敵である。

サプライズ人事とばかりにサブリーダー就任が発表された生田衣梨奈。常に迷いながら、それでもその時点で自分のできる最大限をステージにぶつける誠実さ。メンバーに、ファンに、そして自分に対し真っ直ぐである生田のステージングはいつ見ても気持ちがいい。

飯窪春菜は舞台全体を見渡し自分がいま何をすべきかを考え出した。歌やダンスで後れを取っているような自虐的発言も見せることもあるが、彼女は彼女にしかできないパフォーマンスを身につけ始めている。道重さゆみなき後の俯瞰できるパフォーマーとして心強い前進が見てとれるのだ。

決して器用とは言えないタイプだが、積み上げてきたキャリアとハロー!プロジェクトを愛する思いは誰にも負けない譜久村聖。丁寧に、真摯に、全力でパフォーマンスに向き合う彼女は見るたびに何かしらの成長なり成果を見せてくれる。そして新リーダーに相応しく、ある意味この日最大とも言える見せ場を作ってくれたのだった……。

鞘師里保はスロースターターなのだと思う。ハロー!プロジェクトのメンバーはリハーサルよりも前から入念な発声練習やストレッチで完璧な準備をしてステージに臨む。もちろん彼女も例外ではない。それでもライブでは序盤になにがしかの不安を感じさせることの多いのが鞘師だ。しかしオーディエンスは鞘師があたたまっていくのと同じ速度でテンションを上げていく。そうやってトップギアに入った鞘師は比類なきパフォーマーとして、いわゆる“推し”というのを超えて見る者を惹きつけずにはおかない。それこそがスキルだけでは測れないセンターたる証しなのだと思う。

そして始まった長い長いメドレー。
前述もしたが、ツアー中3種用意されていたセットリストを一つにまとめたロングメドレーだ。矢継ぎ早に繰り出されるキラーチューンの波状攻撃に横アリのボルテージは天井知らずに上がってゆく。

異変が起きたのは「恋愛ハンター」終盤。
下を向く振りの流れから道重が靴に手を当て後方に下がる。
続く「ラララのピピピ」で一列に並ぶメンバーが左右に展開する中から颯爽と登場するはずが、後ろ向きで出遅れ歌いだす。さらに脚を上げるダンスができず、表情には苦痛が混じり出す。
「ABCD E-cha E-chaしたい」では彼女をメインステージに残し9人がセンターステージへ向けて花道を行く。一瞬、道重から巣立つ後輩たちという演出か!? という思いもよぎるがそうではない。

やはり道重は動けないのだ。

メインとセンター、二つのステージに分かれパフォーマンスを続ける10人。おそらく9~11期は戸惑いや困惑があったはずだ。もちろん道重さゆみにも……。

それでもステージ上には誰一人混乱を見せる者はいなかった。そのあたりがこの不自然極まりないパフォーマンスを演出か、と思わせたのだ。

だがこの後横アリの空気は一変する!

センターステージでの「ブレインストーミング」終了直前、一人振り向き隊列を離脱する譜久村。

通常のステージングでは決してすることのない全力疾走でメインステージへ駆ける!

迎える道重は瞬時にすべてを悟り笑顔を見せる。

次の曲は2人のデュエットナンバー「好きだな君が」だったのだ。
かくして無事にツーショットで歌うことができ、ピンクに染まった横アリは事の真相をつかめないままだったものの、地響きのような歓声に包まれた。

譜久村は後に「道重さんの隣で歌いたい!」という思いだけで走って行ったのだと、この時のことを述懐した。

* * *

 ここで僕は思い出したのだ。2011年のツアー「ファンタジーDX」大阪公演を。
このツアーに僕はライブ写真集を制作すべく帯同していた。あの震災を受け、スタートが延期された9期メンバー初となるツアーだ。加入直後にもかかわらず9期の4人は公演ごとに輝きを増してゆき、いい写真集ができるという確信があった。

ファンタジーDXツアー終盤、大阪。
光井愛佳が脚の負傷により残念ながら座っての参加となった公演。9期にとっては初めてのツアーにして、ライブの細部を微調整するという体験にもなったであろう。
それでもそこはモーニング娘。らしく不具合などものともせぬステージング。大阪の熱いオーディエンスの力もありライブは快調に進んでゆく。

だがアクシデントは起きてしまった。
道重さゆみの脚がつった。下手に光井、上手に道重。動けない2人を前にステージ中央で初めての混乱を見せた9期を救ったのは田中れいなだった。手招きで9期を呼び寄せ、左右に分かれての「ブラボー!」。
アクシデントを喜ぶことはもちろんできないが、全員が涙を見せる感動のエンディングだった。

続く千秋楽の座間でもやはり脚がつってしまう道重であったが、すでに9期は昨日までの9期ではなかった。生田の手を引き走り出す鞘師。大阪と同じく上手下手に分かれるモーニング娘。だったが、すでにモーニング娘。イズムは9期に継承されていた。
わずか数日で成長したその姿に今度は僕が涙したものだった。

* * *

 4年弱の時空を超え、シンクロする瞬間……。

横浜アリーナでは泣かずに卒業すると言っていた道重だったが結局涙を止めることはできなかった。それは卒業公演を完璧に演じられなかった悔し涙であったろう。

けれど道重の涙の先には自身が何度も「頼もしくなった」と言う後輩たちの姿が。

アンコールの「見返り美人」で苦痛に耐えながら花道を歩く道重を、先ほどとは逆にメインステージで見守る9人。道重のアイドルとしての矜持、そして愛する人を最高のライブで送り出したいという後輩たちの意地。1人と9人の思いと信頼関係でメインステージと花道はつながれていたように見えた。

道重が「見せたかったという景色」は彼女だけが作り出したものではなく、彼女を愛する全員で作り上げたものだったように思う。道重さゆみが描いたアウトラインに9人とファンが色を塗ってでき上がった、と言ってもいいかもしれない。

譜久村聖はあの疾走についてこうも言っていた。
「ああいうとき高橋(愛)さんならどうしただろう、と考えた」と。
そうだ、こうやってモーニング娘。たちの思いはいつも受け継がれていくのだった――。

目や耳だけでなく心の奥を揺さぶられる本当に素晴らしい卒業コンサートを見せてもらった感謝でいっぱいだった。モーニング娘。は終わらない。寂しいのは一時だけに違いない、などと一足早い真冬のような寒さの雨の横浜を歩きながら思ったりもした。

* * *

 あれから一か月。

譜久村モーニングは新しいまとまりを見せているし、12期も原石と呼ぶには申し訳ないほどの早すぎる光を放ち始めている。
スマイレージ改めアンジュルム3期メンバー、カントリー・ガールズらのニューフェイスらも、私感で恐縮だが取材が楽しくて仕方がない。これまでのハロー!プロジェクトになかった新しい魅力に満ち溢れているからだ。それと同時にハロプロの歴史へに対する彼女たちのリスペクトも感じられるのが嬉しい。

新ハロプロリーダー矢島舞美。
リーダーシップというのとはちょっと違う、周りの人と愛情を交わさずにはいられない不思議な、あるいは透明感のある人となり(!?)はどこか道重と重なって見えたり……。

道重さゆみを目にすることはなくなってしまったが、そのイズムはハロー!プロジェクトの全員に何かしらの影響を与えていったように思う。そう言うと本人はくすぐったがるかもしれないがそれは「愛」なんだ、どう考えても。

あとがき

本当は横アリのライブリポートをやる予定だったのですが、なんやかんやで遅くなり、巷には素晴らしいリポートも山ほどあることだし今さら……と思い、何度も手を入れているうちになんというか極私的なテキストになってしまいました。しかもほとんど2014年も終わろうとする頃に書いてたりして……。数々の名場面などについてはパトロールして他の方のリポートを見ていただければと(笑)。
横アリ以降モーニング娘。たちには会ってもいなければイベントの類いにも顔を出していないのですが、ネット上には楽しげな話題が花盛り。やっぱり2015年以降には期待しかないわけです。道重さんに代わるスポークスマンぐらいですかね、気になるのは。
それでも新顔の子たちはほんとに屈託のない現代っ子が多く、いい意味でのハロプロと“世間との乖離”を軽々と飛び越え、世の中とつなぐ役割をはたしてくれるんじゃないかなぁ、などと思っています。
お正月のハロコンがこんなに楽しみなのは何年ぶりか、ってぐらいですし2015年も皆さんと一緒にエンジョイできればいいなぁ、と思っていた年の瀬に飛び込んできた鈴木香音・佐藤優樹故障の報……。本当に心配だし残念でもあるのですがモーニング娘。’15がいかにしてこの試練を越えていくのか見届けてやろうとも思っています。

最後にエンタメアライブの管理人さんには面白い機会を与えていただき心から感謝しております。仕事柄「僕は」みたいな原稿はなかなか書けないですしね(笑)。遅くなってほんとうにごめんなさい。

ともあれ長文お読みいただき誠にありがとうございました。

2014年12月某日――石川洋

(文=石川 洋)


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“道重さゆみ卒業公演リポートという名の2014年の娘。たちへの雑感と2015年のハロー!プロジェクトへの期待のようなもの” への6件のフィードバック

  1. avatar アライブ名無しさん より:

    ん? 今更の横アリ道重卒コン記事?
    なんだかなーまあ、読み飛ばすか、、

    、、と終盤には電車の中で涙が止まらず、、
    失礼いたしました。感動させてもらいました。

  2. avatar アライブ名無しさん より:

  3. avatar アライブ名無しさん より:

    全俺が泣いた

  4. avatar アライブ名無しさん より:

    新年から素敵な文章が読めました

  5. avatar アライブ名無しさん より:

    この人ってほんと文章は下手だな
    編集者としての力量はあるんだろうし
    そっちに徹してればいいのに

  6. avatar アライブ名無しさん より:

    あの卒コン現場でみれてほんとによかったと思います
    語りたくなってしまいすよね あのライブは

    誰の胸にも刺さったんだと僕は思っています
    生きててよかったと思える出来事でした

    大袈裟ですけどね^^w

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