10月24日放映の日テレ『未来シアター』は、モーニング娘。’14のツアー密着ドキュメンタリーだった。
ところが、蓋を開けてみると、卒業する道重さゆみよりも、ツアーの内容よりも、メンバーの生田衣梨奈にフォーカスを当てた、さながら「生田シアター」とでも言うべき内容だった。
番組公式サイトでは放映内容のかなり詳細なサマリーが掲載されているので、見てみよう。
『未来シアター』2014.10.14 革新者 モーニング娘。’14
「モーニング娘。’14」 「アイドルグループ」
主題歌「What is LOVE?/モーニング娘。’14」かつて天下を取ったアイドルグループが低迷を乗り越え
再ブレイクしている
モーニング娘。’14他のアイドルと一線を画すのが、
一糸乱れぬダンスパフォーマンス
「とにかく凄い、もはや人間じゃない」
そう絶賛されるフォーメーションダンス
立ち位置を目まぐるしく移動し、
フォーメーションを変えていく複雑なダンス
このダンスを武器に、5作連続オリコン1位を達成ところが…、彼女たちは今、試練の時を迎えていた
メンバーたちの精神的支柱であった
リーダー 道重さゆみの卒業
それぞれが不安を抱える中、卒業する道重に
誰よりも特別な想いを寄せるメンバーがいた加入して3年目の生田衣梨奈
ダンスも歌も得意ではない
他のメンバーより実力の劣る彼女にとって、
センターに立つことなど夢のまた夢
何もできていない自分はどの立ち位置にいけるのか…
残される者たちの進むべき道とは…『進むべき道』
モーニング娘。’14
代名詞となっているフォーメーションダンス
メンバーは、ステージを縦横無尽に動き回る
だが、ただ移動すれば良いわけではない
観客を魅了するためには、表情やリズム感など
細かい表現力が求められる
ところが、生田は…
ただ移動しているだけ、移動中のリズムが無い
そう先生から注意を受ける
さらに、複雑な動きが続く中で
一人、タイミングを間違えるというミスも…
ハイレベルな技術を持つメンバーたちについていけないそんな生田が目標とし、憧れ続けてきた存在
8歳年上のリーダー道重
置かれた立場はまるで違うが、実は意外な共通点がある
12年前、モーニング娘に加入した当初の道重は、
今とは まるで別人
歌もダンスも上手く出来ない
生田は昔の自分を見ているみたい…
道重本人もそう認めるほど似通った2人
だからこそ、今の生田の苦悩を誰よりも理解でき、
そして、自分の力でその状況を打破してきた道重
今はもがいていても諦めずに頑張ってほしい
生田の可能性を信じ、見守ってきた
そんな道重の姿に、励まされてきた生田
支えてくれている道重に成長した姿を見せたい道重の卒業ツアーが迫る中、生田はひとり練習に励んだ
迎えたツアー初日
もう迷いは無かった
ステージには全力のパフォーマンスを見せる
生田の姿があった去りゆく者と、その意志を継いでゆく者
モーニング娘。’14は、これからも進化を続けてゆく
この構成については、ファンの間でも賛否の声が分かれた。全体として概ね好評だったが、一人のメンバーにフォーカスし過ぎることや、生田をあまりにも「できない」扱いしすぎること、「人気がないメンバーは握手会で列がなくなって閑古鳥」といった演出について、「実態に即していない」という批判の声も上がった。(※モーニング娘。の握手会はランダム発券のため、人気差が露骨に表れない)
「演出」と「ヤラセ」の境目を綱渡り
筆者は今回の『未来シアター』を見ていて、良い意味で「プロレス的」と感じた。確かに先述のような、理想的なストーリー展開に沿わせるために、時には虚構が混じることに批判の声があるのも確かだし、行き過ぎれば「捏造」との非難を受けることもあるかもしれない。「演出」と「ヤラセ」の境目は非常に曖昧だ。
「プロレス的」というのは、色々なニュアンスで使われるが、極めて語弊の多い言葉でもある。
例えば政治の世界などで「あれはプロレスだ」と揶揄されるようなときには、「勝敗は最初から筋書きで決まっているのに、八百長で争うフリをしている」というようなネガティブな意味合いで使われる。
しかし、プロレスラーがリング上で誇示している肉体や技が、常日頃のたゆまぬ練習とトレーニングによって身につけたものであることや、そこで流れる血と汗が本物であることは疑いようがない。たとえその試合にブックが存在するとしても、プロレスラーは己の肉体を使ってドラマやメッセージを表現し、観客はその過程に魅了される。
同じように、アイドルもステージ上で身体表現として、コンサートのパフォーマンスを見せる。ファンは同時にその裏にある努力を感じ取り、「武道館」「音楽番組」などの目標に向けて努力する彼女たちに感情移入し、過程を共有することに興奮する。
TVサイズの生田衣梨奈
そうした物語性を、TVサイズで分かりやすく表現する際には、「デフォルメ」が必要になる。本当は、ほかのメンバーに比べてちょっと技量が劣るだけかもしれない。それはフォーメーションダンスでは目立たない程度の差かもしれない。あるいは、1週間程度の個人練習で、ツアー初日に見違えるほど上達してはいないかもしれない。生田が個人練習している時に、だーいしとズッキがいつもいつも「あ~ん」ごっこをしているとは限らない。
しかし、それでいいのだ。テレビがストーリーを届けるのは、ファンのみならず幅広い視聴者であって、前提や細かい話が分からない一般層に向けて映像を見せるためには、なによりも分かりやすい起承転結や、短くてもスッキリできる勧善懲悪や成長物語が必要になる。それが娯楽だ。そういう意味では、この『未来シアター』は、虚と実の入り混じった、でも現在のモーニング娘。の魅力や勢い、手触りを分かりやすく伝えた、質の高いテレビショウだったと思う。
そしてこれは、かねてより「アイドルは歌やダンスの巧さよりも、たとえ出来なくても努力する過程を見て応援してもらうもの」という生田の持論とも合致していた。それに、アイドルに必要な能力と才覚は歌とダンスの2種類だけではない。「出来なくても頑張る姿」を見せることが全てでもない。道重さゆみがネット発の「道重伝説」で話題になったように、自らを物語化する、あるいは物語を自らに引き寄せることこそ、「アイドル=偶像」として輝くために必要な資質ではないだろうか。
努力の見せ方が世界一
「笑わなければ美少女」なんて口さがないファンに言われたりもするが、実際この日のように、真剣な面持ちで思い悩んだり叱られていたりする姿がまた、絵になるのだ、生田は。
プロレスラーにしろ、野球選手にしろ、人気を集めるのはいつも勝つ選手、エース級の選手ばかりとは限らない。アイドルグループにも「努力している姿の見せ方が超一級のメンバー」がいてもいいではないか。
そういう意味で、この日の『生田シアター』での生田衣梨奈が見せたのは、虚構の中に存在する確かなリアルの存在感であり、その様は堂々たるアイドルだった。これからも、さらに生田が「でしゃば」って、成長物語を見せてくれることに期待したい。世界一のアイドルになるその日まで。
大いに納得しました。
宮元望太郎さんの記事は大体いつもよく練られていて愛も感じるし非常に感心しているのですが、今回の記事は特に目から鱗が落ちたと感じました。ので初めてコメントします。長文すみません。
テレビのニュースやワイドショーで取り上げられるとき、バラエティーに出演するとき、そして今回のようにドキュメンタリーとして取り上げられるとき、あるいは雑誌などにインタビュー記事が載るとき等、それぞれに少しずつ異なったニュアンスで彼女たちの姿は伝えられているように感じます。
ファンとして、「そんな切り取り方では魅力が伝わらん」「そんな見せ方をしたら誤解されるんじゃないか」などとやきもきすることも多いです。しかし、今回の記事のような形でメディアの「受け止め方」を示してもらえると、応援しているアイドルの魅力や可能性に改めて気づけるし、何よりテレビの制作側とか雑誌の編集側の人たちを無用に憎まなくて済むというのが嬉しい(笑)
「彼女たちは悪くない。悪いのは周りの大人たちだ」という趣旨の発言はネット界隈でよく見かけますし、私もそのように思考してしまうことがないわけではありません。しかし出来ることなら、アイドルを応援することはただひたすらに楽しく幸福なことであってほしい。メディアの作り手側を叩いたり、事務所を罵ったり、そういうネガティブな気分はなるべく避けて通りたいのです。
私も『未来シアター』を観てある種の違和感を持った者の一人です。そのときのもやもやを、「憤り」に向かわせることなく「納得」する方向へ持っていくことができたのは、この記事があの番組の「読み筋」を示してくれたからです。
ありがとうございました。今後も、ファンの間で紛糾しそうな/している話題について、アライブ流のよく練られた愛ある「読み筋」を示してもらえると嬉しいです。
期待しています。私はハローも応援していますがエンタメアライブのことも応援しています!
こんな風に納得、評価していただけると、書き手冥利に尽きます。
彼女たちの出演テレビ等を見ていると「自分だったらもっとこうするのに」と思ったりすることは私もよくありますが、こういう出演は、全てを知る私達ファンだけではなく、新規ファンになる可能性のある一般視聴者に向けたものでもあることを忘れず、余裕を持って見たいものです。
ハローある限りエンタメアライブも存続していきますので、今後とも応援よろしくお願いします!