握手会と「握手会レポ」はどうあるべきか? 今問われるファンの節度とアイドルの矜恃

先日、「鈴木香音は果物モノマネを本当はやりたくない?」と題して、注目された「握手レポ」Twitterの全文を掲載した。(モーニング娘。鈴木香音は「果物モノマネ」を本当はやりたくない? ファンとの会話詳細まとめ
この記事について、件の握手レポに批判的な立場の方からは「さらに拡散させるのか」といった批判を受けた。「記事を削除すべき」という声もあるので、まずは当該記事を作成した経緯を説明する。

あの記事の作成目的は、「どうせ拡散されてしまっているなら、詳細情報を」というものがまず第一にある。

最初のツイートのみが拡散され、平行して掲示板にスレッドが立ち、その日のうちに10万規模アクセスのまとめサイトに相次いでまとめられて拡散された。
断片的に広まってしまうことを危惧したハコオシ氏は、続いて詳細な会話記録を投稿するものの、ツイート数が多いこともあり、こちらはわずか数件しかリツイートされていなかった。

RT汗のごとし一度ネット上でつぶやいた言葉は、後から削除しても取り消すことは出来ない。それなら断片情報だけが拡散されたままよりも、より詳細な情報が一箇所にまとめられている方がまだマシである。(同時に、握手会におけるアイドルと熱心なファンとの会話や握手レポのあり方について、資料的価値があるのではないかと考えた)

しかし、それは「まだマシ」という次善の策であって、最善ではない。問題は、断片的な発言が拡散されてしまったことではなく、そもそもメンバーの不利益になりうる発言内容をツイートしてしまったことにあるのだ。

いや、さらに本質的なことを言うならば、握手会でファンがメンバーの私的な発言を引き出そうと工夫すること自体に問題があるのではないか?

握手レポはインタビューではない

当該記事で一連の「握手レポ」を「もはやインタビュー」と評したが、インタビューではないのだ。握手レポートとインタビューには、厳然たる違いがある。

インタビューは、インタビュアーが録音を回しながら質問をし、後から記事に起こして、掲載メディア内のチェックと事務所のチェックを受ける。そこで不適切な発言、不正確な部分は削除され、問題のない部分だけが記事になる。つまり、隠される事実もあるが、事実と異なる話が出てくることもない。

それに対して、握手レポートは、正確な記録や、第三者による事実確認が存在しない。この二点において大きく、根本的にインタビューとは異なる。

加えて最も大きな違いは、対象となるメンバーが、その発言が表に出ることを意識しているかいないか、という点だ。

「握手レポ」をネットで見ていて、ときに他人の話を盗み聞きしているような、なんとも言えず嫌な気分になることがある。これはそもそも、握手会での会話というのが擬似的なプライベート空間であることに起因する。

インタビューならば、メディアに掲載されることが前提なので、される側も公開可能な話しかしない。しかし握手会は、基本的には1対1の会話であり、時にはプライベートな話もされる。そこで話される言葉は、アイドルが眼前に立つ1個のファンに対してのみ発してくれた言葉であり、それをネットで吹聴するのは、手紙を晒すマナー違反と似ている。

実はこの点について、ハコオシ氏とお会いした時に直接話をした。

宮元「私は握手レポってものには反対ですね。せっかくメンバーが自分のためだけに話してくれた言葉は、大事に心にしまっておきたい。人に伝えるなんてもったいない。」
ハコオシ氏「私は逆ですね。いい言葉を自分だけのものにするのはもったいない。いい言葉だったら皆に知ってもらいたいと思います」

同じ「もったいない」でも、そのニュアンスとスタンスは全く違う。

握手者はファンであり、インタビュアーではない

握手レポがインタビューでないというのはつまり、当然ながら握手するファンはインタビュアーやレポーターではないということだ。
しかし、常習的に「握手レポ」をツイートする人の場合、握手よりもそれをレポートすること、つまり「対象からいい話を引き出すこと」と「それを『特ダネ』として広く伝えること」が目的になってしまうきらいがある。

あるいは、足繁く現場に通ったことによってメンバーから認知され、ファンというより友人や先輩のような親近感と距離感を持ってしまっている人も多いように見受けられる。
これを、前回の握手体験レポートで、筆者は「認知の毒」「握手期をこじらせた重症患者」と称した。

忘れてはならないのは、握手する私達はあくまでファンであり、レポーターではないということだ。これは同時にメンバーの側も忘れてはならないことなのだが、握手会でのゼロ距離接触は、その垣根をゆっくりと侵食し、溶かしていく

貴人の聖性が、何によって担保されるか。それは隠匿によってに他ならない。

分かりやすく言うと、大河ドラマで帝や上皇は、常に御簾の向こうに座っていて、その姿はぼんやりとしか見えない。現代においても、天皇陛下に拝謁できる人間はごく一部に限られている。

あるいは、寺院のご本尊が、本堂の奥深くの閉ざされた扉の向こうではなくて、入口の門の横に「自由におさわりください」と札を立てて置いてあったらどうだろうか。有り難みも何もあったものではない。5年、10年に1度だけご開帳される秘仏が神通力を保てるのは、ひとえにそれが俗界から隔離されているからに他ならない。

筆者が握手会に並んでみて、例えば毎回100枚まとめ出しをする自分をイメージしてみて、それに甘美な誘惑と同時に恐怖を感じたのは、おそらく自分も認知されたら「単なるいちファン」という認識ではなく、特別感を持ってしまうのではないか、と予感したからである。

筆者は、ハロプロのアイドルたちには、アイドル<偶像>のままでいてほしいと思っている。その類まれなる美貌や美声で、ステージ上から我々を魅了してほしいと思っている。距離が近くなりすぎることは、とりもなおさずその「崇拝する喜び」を自ら減じる行為にほかならない。

親目線」「親戚目線」とは、異性愛的ではなくアイドルを応援するファンがしばしば口にする表現だが、それは一方的に抱くことのみが許される感慨であって、メンバーに直接求めていい親近感ではない。
アイドルにアドバイスがしたいのなら、マネジメントに入社するかダンスやボーカルのトレーナーを目指せば良い。アイドルと結婚がしたいのなら、人気お笑い芸人かメジャー級のプロ野球選手になれば可能性はある。そこに到達できない我々凡人は、どこまで言っても砂粒のいちファンでしかない。そういった意識、分をわきまえるといった感覚を、自己否定ではなくむしろファンの矜持として持ち合わせていないといけない、と筆者は考える。

その矜持は、ステージ上の絶対者を崇拝し熱狂するという大いなる喜びとして、我々に答えてくれるはずだ。

心まで入らないで

さて、こうしたファンとアイドルの身分の違いについては、アイドルの側にも意識していてほしいものではある。
しかし、まだ10代も半ばの少女に、高いレベルでのそれを要求するのは難しいかもしれない。彼女たちもまた、ファンサービスとして「友達のように気軽に話してほしい」とも言っているし、毎回コンサートに通い、自分と握手しに来てくれる熱心なファンにはある種の好意が生じるのも、人間としては当然のことだろう。そうなると、例えば突っ込んだ質問をされた時には、正直に答えてしまうこともあるだろう。握手対応がいい、優しい性格のメンバーならなおさらだ。

心まで 入らないで
別に隠してるわけじゃないよ
誰かみたいに uh 面白く話せないだけ

それ以上 のぞかないで
別に嫌だって意味じゃないよ
なんかそれぞれに 知らない部分とか あってもいいと思う
ていうか別に…別に…別に…
あの日の気持ちは ウソとかそんなんじゃないし
『100回のキス』 松浦亜弥(つんく♂)

そうなると求められるのは、やはりファン側の成熟した態度、節度ある握手マナーなのではないだろうか。1日で百人単位の見知らぬ相手と握手するアイドルにとって、回答に窮するような質問や、心まで立ち入るような質問をされるのは、精神的負担以外の何物でもない。

あるいは、「特ダネ」になりうる発言を引き出したからと言って、それはネットに拡散していいのか、それによってメンバーが不利益を被ることはないのか、立ち止まって考えたい。それと同時に例えば今回の件で言えば、「どんな文脈、ニュアンスで発言したのか」という正確性よりも、「果物モノマネはやりたくない、スタッフの要請でやらされた」という趣旨の発言自体と、それを握手会でファンに話してしまったということ自体が問題なのだ。(インタビューであれば事務所の修正が入るし、握手レポがなければ表に出ないので問題にならなかった部分)

握手が当たり前の時代を迎えた現在のアイドルシーンでは、ファンの側の成熟とアイドルの意識、そしてマネジメント側のリスク管理の責任がこれまで以上に問われている。

(文=宮元 望太郎)


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“握手会と「握手会レポ」はどうあるべきか? 今問われるファンの節度とアイドルの矜恃” への15件のフィードバック

  1. avatar アライブ名無しさん より:

    鈴木香音本人が記事を残して欲しいと思うわけないのに
    自分の都合で更に追記するとか
    この人もハコオシと変わらない

    最近こういう人多いな
    自分を正当化するために相手の都合を無視する
    引用しないと記事書けないのか?

  2. avatar アライブ名無しさん より:

    文章の内容によっては過剰に伝わってしまい何の解決もないままハコオシ氏、ズッキ両方を吊し上げている、これもただの炎上を重ねてるのではないか?発言の真意について曲解するのはインタビュアーとして恥ずべき行為。

  3. avatar エンタメアライブ名無しさん より:

    本人がネット見たら今度から余計なことは言わないって萎縮する可能性はありますね。

  4. avatar アライブ名無しさん より:

    彼女の意思も尊重しない
    タレント生命に関わることなのに消さない
    こんなんファンでもなんでもない

    この記事もあれこれ理由を付けて注目されたいだけでしょ
    その結果、不利益を受けるのは彼女ですよ

  5. avatar アライブ名無しさん より:

    ファンレターの返信を晒すのと同じ行為。理解不能だわ。

  6. avatar アライブ名無しさん より:

    握手レポする人は握手するときに本人に許可を取るべき
    皆に教えてもいい?世界に向けて配信するけどいい?ってね
    それもないのに勝手にするのは善意悪意関係なくゴシップ記者と同じだよ

  7. avatar アライブ名無しさん より:

    うん、みんなが指摘してるけど、言った鈴木さんまで悪いと受け取れるのはね。
    つもりが無くてもね。
    でもこれ、大騒ぎするほどの事?さっきまで忘れてたのに。

  8. avatar アライブ名無しさん より:

    記事消せとか言ってる人は本文読んでないのかな?
    超正論だと思うんだけど
    でも俺普通の握手レポ読むのは結構好きなんだよなあ

  9. avatar アライブ名無しさん より:

    タレントがすべて本音を語ってるわけではないのでは?

  10. avatar アライブ名無しさん より:

    ハコオシさんの反論
    https://twitter.com/MusumeHakooshi/status/528293713051529217
    https://twitter.com/MusumeHakooshi/status/528296116920389632
    https://twitter.com/MusumeHakooshi/status/528296777514889216
    https://twitter.com/MusumeHakooshi/status/528297358967066624
    ハコオシさんには反論する術がありますが、ズッキには無いんですよね。
    これがちゃんとしたインタビューなり、ニュース記事なりならその術もあったのかもしれませんが、
    所詮はネットのうわさ、よっぽどことが大きくならない限り受け流さないといけない。
    受け流せないほどことが大きくなるのはもちろん問題。
    そして、そんな小さな誤解がどんどん積み重なって彼女のイメージを形成してしまうわけです。

  11. avatar アライブ名無しさん より:

    宮元さんがコメント欄にも目を通してるのなら、ぜひ答えてほしいことがあります。

    「どうせ拡散されてしまっているなら、詳細情報を」という考えには理解できる部分があります。
    でもそれは、そうすることでメンバーの不利益を少しでも解消される場合に限ると思います。
    一番初めのツイートからも、
    「果物モノマネはやりたくない」「でも、番組スタッフ側から要求される」「やるからには思い切りやる」
    ということはわかります。
    後ろ向きな発言でないことは詳細なレポートにしなくても伝わってきます。
    むしろ、「バイキング」の裏側までレポートして、不利益は増えてるようにすら思いました。
    正直なところ、ハコオシさんの言い訳をまとめた記事に思えたのですが、宮元さんにはそうじゃないんだと思います。
    あの記事を書くことで何を伝えたかったのでしょう?

  12. avatar アライブ名無しさん より:

    このハコオシってひとはどこかに所属している訳ではなく
    金銭も発生していない、ただのファンですよね

    てことは無責任になんでも言える訳で
    嘘をつくことも自分で会話を補完することだってありえる

    そんな人物に「取材」して(ハコオシ氏ツイート参照)
    記事を書いて、人物保証ともとれる記載もしている
    (個人的には氏が〜前記事参照)
    ただのファンのつぶやきを記事にするって、
    妄信を事実のように伝えるかなり危ういことだと思います

    ツイートの時点やまとめサイトでは流していたけど
    今回の記事や前回の記事を読んで鵜呑みにしてしまう読者はいると思いますよ

  13. avatar 宮元 望太郎 より:

    ※11
    最初のツイートでは「果物モノマネはやりたくない」「でも、番組スタッフ側から要求される」「やるからには思い切りやる」
    「ということはわかります」というより「ということしかわからない」とも言えます。後ろ向きな発言にも受け取れますし、そうでないのかもしれない。ただ上記3点しか分かりません。それを一箇所にて補完する目的と、握手会におけるアイドルと熱心なファンとの会話や握手レポのあり方について、問題提起をする必要性を感じたからです。
    それによって、鈴木香音の「不利益」は減じたのか増えたのか、どちらとも言えないところでしょう。
    私としては、それほど変わらないと思っています。

    さらに言うならそもそも、元発言、ツイートからして、大きく鈴木香音の「不利益」や「タレント生命に関わる危機」にはなっていません。(バイキングの話も、あの程度ならちょっとした収録こぼれ話レベルで、「不利益」にはならないと思います)
    ただし、こうした自由で無秩序な握手会レポが続けば、いずれ本当にそうした危機につながる失言やレポートに発展した可能性もあります。本エントリーはそうした風潮に警鐘を鳴らし、問題提起する目的で書きました。そしてそのためには、前段階の資料として前エントリーが必要でもあるわけです。

    ファンもメンバーも事務所も、握手時代とSNS時代が同時に到来した状態は初めて経験するものなので、おそらく今後も何らかの問題は発生するでしょう。この問題については今こそそれに関わるものがそれぞれ考えるべき時なのではないか、そう思った次第です。

  14. avatar アライブ名無しさん より:

    この手の話はもう某グループさんの方では物凄い問題になって久しいわけで
    ハロで初めてだからって今更問題提起も無いんじゃないかと
    まあ握手会に限らずオフィシャルで無い発言がネットで拡散されるのは
    最近ではもうある程度防ぎようが無いしそれを欲しがる人も居る

    でもこれが回り回って極力無難な事以外何も喋りませんとなるのも
    自業自得とまでは言わないけど一部の人達の勝手な解釈によるものだとしたら
    傍から見てると何か迷惑以外の何ものでもないかなと
    不利益かどうかはあくまでタレントと事務所側の判断なのでは?

  15. avatar アライブ名無しさん より:

    握手会はファンサービスイベントなんだから、
    ズッキは、ハコオシさんが望んでいた「果物モノマネはやりたくない」という言葉をかけてあげたということ。
    それ以上でも、それ以下でもない。

    別のファンが正反対の言葉を望めば、正反対の言葉をかけてもらえるよ。多分。彼女は優しい子だし。

    ・アイドルの握手会での発言を事務所が完全にコントロールすることはほぼ不可能。
    ・微妙なニュアンスがわからないファンがツイッターでつぶやくのを完全に止めさせるのもほぼ不可能。

    この2点を前提として、
    私がこのサイトに望むことは、
    ツイッターで拡散される握手レポを、無批判に受け入れてしまう、そしてRTして拡散させてしまう、情報を受け取る側のリテラシー向上です。

    ズッキがそうハコオシさんに語ってネットでつぶやいたとしても、信じる信じない自由は我々ファンに平等にあるはずです。
    そこに目を向けさせてくれれば、こういうエントリーもありですし、前記事の削除もしなくていいのでは?

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