モーニング娘。’14の道重さゆみが、リーダーとしてリリースする最後のシングル『TIKI BUN/シャバダバドゥ~/見返り美人』のうち、道重さゆみを送る歌として作られた『見返り美人』のMVに、誰もが驚く仕掛けが隠されていた。
『見返り美人』。この曲は、道重さゆみの卒業曲だが、後輩たちが去りゆく先輩を惜しむ歌として作られ、本人は歌わず、9~11期の10人のメンバーによって歌われる。道重さゆみは、和服の「見返り美人」としてMVに登場するのみだ。
2曲目の『シャバダバドゥ~』が道重ソロ曲なので、そのバランスを取った措置とも言えるし、「さゆみの卒業後はよろしく頼んだからね」ということで後を託される9人が歌うというのは辻褄が合う。しかし純粋に楽曲として評価するならば、自らが曲の主題でありながら、逆説的に脇役とも言える。
ところが、この歌もない、ただただ美人として送られる受け身の作品の中にも、道重さゆみはとんでもない仕掛けを残していた。
画像でご覧いただこう。
道重さゆみからのメッセージ
ファンのみなさんへ
さゆみのファンのみなさんが、
さゆみのファンのみなさんでよかったな・・・
ありがとうさゆみより
お分かりいただけただろうか。
卓上に、9通の後輩に託した手紙が並んでいる、という演出のシーンで、一つだけ封を開けてある手紙がある。それが10通目、私達ファンへのメッセージだったのだ。
Twitterでも大規模掲示板でも、この道重さゆみからの14章、「The Message」を受け止めての感動の声が渦巻いている。
「うおおおおおおおおおおおおおおお」
「オレりほりほ推しだけど今日からさゆのファンになる」
「まじじゃねーか」
「さゆちゃんはたまにこういうこと言うよ」
「画面が霞んでるんだけど」
愛の人 道重さゆみ
道重さゆみよ、あなたはどこまで完璧なのか?
おそらく歴代にも、もしかするとこの先にも、ここまでアイドルとして全人格を最適化したような人は現れないのではないだろうか。このアイドル力は、人智を超えかけている。
世の中には、ややもするとこうして道重さゆみという卒業していく個人を神格化することに対して批判的な意見もある。もちろん、道重さゆみは完璧な人格ではないし、聖人君子でもない。
嫉妬もするし、溺愛もすれば偏愛もするし、何より自分が大好きだ。そしておそらく、自分のことを好きでいてくれる人が好きなのだ。道重のファンに対する愛は、「自分のファンだから」という思いがベースにあるものと思われる。「さゆみのファンのみなさんが、さゆみのファンのみなさんでよかったな」という言葉にもそれが見て取れる。しかしそれはそれでいいのだ。それは決して打算や取り引きめいたものではない。
ファンは道重さゆみがアイドルとして歩いてる道を信じ、道重さゆみはファンがそんな自分を愛してくれていることを信じている。それは、アイドルとファンとの幸せな相思相愛と言っていい。
「漫画の神様」と言われた故・手塚治虫先生も、しばしば若い才能に嫉妬し、常に自分が一番であろうと漫画を書き続けていたという。
例えば、手塚が新人時代の大友克洋に
「君のような絵はね、僕にだって描こうと思えば描けるんだよ!」
と敵意をむき出しにしたエピソードはあまりにも有名だ。実に俗っぽい。俗っぽいけど、俗人、凡人ではない。
「アイドルの神様」とおそらくこれから呼ばれることになるであろう道重さゆみも、実に俗っぽい性格をしている。一番かわいいのは常に自分であろうとするし、誕生日は祝われたいし、可愛い後輩に対する偏愛を隠そうともしない。そして、「よし、今日もかわいい」の名言で知られるとおり、何よりも自分のことが好きで好きで仕方ない。
だが、それでいいのだ。
自分を愛してこそ
こんな言葉がある。
人は、自分を愛せる量だけしか、他の人を愛せません。
そして、自分を愛せる量だけしか、他の人からも愛されません。(武者小路実篤)
聖書にも、「己を愛するがごとく、汝の隣人を愛せよ」とある。自分をも大切にすることのできない者が、どうして人を大切にすることができようか。人を愛するには、まず自分から、なのだ。
道重さゆみという人は、もう、どうしようもなく愛の人なのだ。
自らを愛する愛の器が大きすぎて、さらにそこに注がれる愛の量も半端ではなく、それは「モーニング娘。」という箱を満たし、メンバーを愛し、さらにほとばしる愛が、熱いパトスが、トリクルダウンして我々のもとにまで注がれているのだ。
道重さゆみのファンは、幸せである。
この、机の上に手紙を並べるという演出は、MV監督による発案かも知れない。しかし、並べられた後輩への手紙の中には、ちゃんと道重がそれぞれのメンバーに向けたメッセージを書き入れてあるはずだし、一通だけファンへのメッセージをしたため、それを画面に映り込ませる、というアイデアは、道重さゆみが提案したはずだ。
これは推論だが、おそらくこれに異を唱えるファンはいないだろう。
多くの人が「さゆならそのくらいのことは考えつくだろうし、してくれるだろうなあ」と信じられるはずだ。
それが、道重さゆみが10年間かかって築き上げてきたファンとの信頼関係であり、その身を持って示し続けた、自分とモーニング娘。とファンに対する愛の到達点である。
我々もまた、愛の軍団の一員なのだ。
何も言えません とにかく
涙を流します