モーニング娘。’14リーダーの道重さゆみが、9月12日放送の日テレ系『アナザースカイ』に出演した。この番組は、「海外にある第2の故郷」、「憧れの地」をテーマに、ゲストの人生を掘り下げる、紀行番組+トークの形式をとった番組で、ゲストの素顔にじっくりとスポットを当てられるような作りになっている。
道重さゆみが選んだ「アナザースカイ」は、ハワイ。この間のハワイツアーのついでに撮影したのかとおもいきや、今年の6月頃に撮影していたようだ。
道重さゆみの「約束の地」ハワイ
ハロプロ、モーニング娘。とハワイと言えば、ツアーや撮影で毎年行くことでお馴染みの海外だ。いわば彼女にとってはハワイが「年中行事」になっているわけで、そう考えるとハワイに参加したことのない私達でもなんとなく分かる。
年中行事というのは、年の節目になり、嫌でも去年の自分、一昨年の自分を思い出し、向き合うことになる体験だ。道重さゆみも、ハワイに行くたびに楽しい思い出を重ねつつ、今年の自分、去年の自分、一昨年の自分、と己を振り返り続けてきたものと思われる。
番組内で、合格当初の全能感から一転して「何も出来ないひとなんだと気づいた」エピソードを語っていたが、道重さゆみとハワイと言えば、もう一つ重要なエピソードは「うさちゃんピース誕生秘話」だろう。歌割りもなく、後列に追いやられ、自身を失いつつあった2003年頃に、密かに写真に写る際に始めた「うさちゃんピース」。2005年のハワイツアーで、ようやくファンから「うさちゃんピースで映ってください」と言われ、実にモーニング娘。加入時以来の自己承認欲求が初めて満たされたのがここハワイだったのだ。
そこからの歩みも決して早くはなかったが、道重さゆみは一歩ずつ、着実に「出来る」ようになり、本当に「可愛く」なっていった。それは常に自分を振り返り、足りない部分を自覚し、アップデートを続けてきた努力の賜物だったのだろうと思う。
13歳の右も左も分からない少女が、24歳になるまで毎日重ねてきた「可愛い」への飽くなき探究と研鑽。私達ファンは、道重さゆみの現在のパーフェクトアイドルとしての立ち居振る舞いが、そうした地味で地道な努力の上に完成されたことを知っている。
そしてだからこそ道重さゆみは、「あなたにとってモーニング娘。とは?」と聞かれて、「人生そのものです」と即答できるし、その発言に有無を言わせぬ説得力があるのだ。
番組の構成も非常に分かりやすく丁寧で、道重ファン、ハロプロファンならずとも、この番組のファンやたまたま番組を見た人にも、道重さゆみの人となりやこれまでの歩み、モーニング娘。の現在がおおまかに理解できる内容になっていた。
11年を30分で語るとこうなる
30分番組なので、かなり単純化されてはいたが、
「黄金期→加入→何も出来ない自分→コンプレックスと挫折→紅白にも出られなくなる→バラエティの活躍→現在のモーニング娘。の知名度の低さ→フォーメーションダンスで勝機→オリコン5週1位の記録で復活」というストーリーで紹介された。
やはりなんだかんだ言って、世間的にはモーニング娘。というのは、残念ながら「一回見なくなった」存在であって、それが今また出てきている、という状況を説明するのに、「挫折→チャンスを掴んで復活」という図式は、非常に分かりやすい。
この、
「紅白にも出られなくなり停滞→フォーメーションダンスで復活」というモーニング娘。復活の図式は、ちょうど
「加入したけど目立てない自分→バラエティ番組に進出して活躍」という道重さゆみ活躍の図式と構造的には全く同じである。(グループの図式に道重個人の図式が入れ子となったフラクタル構造)
これは「挫折・敗北→神の祝福や必殺技を身につけて勝利」という、神話の構造でも少年漫画でも使われる図式で、普遍的にウケるストーリーパターンなのだ。
なので今後も、この図式はモーニング娘。の現状を語る際に繰り返し使われることと思われる。
卒業の理由
さて番組の後半に、MCの今田耕司から改めて「卒業を決意した理由」を聞かれると、道重さゆみはこう答えた。
「可愛さのピークのうちに卒業したいなと思って」
これには今田耕司も笑ったし、スタジオにも笑いの音声が被せられ、これは番組的には「私かわいい」ナルシストキャラに殉じた、ネタ的な発言として処理されていた。
しかし、これは、道重さゆみにとって本当に本音の、意外でもなんでもない本音なのだろうと私は思うのだ。
あのとき卒業の理由を何と語っていたか
そもそも、道重さゆみが山口県の凱旋コンサートでのMC時に、卒業の理由を何と語ったかを思い返してみると、
「田中れいながいなくなり、年長メンバーが自分だけになったツアーで、後輩たちが頼もしく成長していたことに気づいたから」というのが理由だった。
これはこれでもちろん掛け値なしの真実だと思う。6期メンバーが一人になっての初めてのツアーはさぞ不安だったことだろうし、その不安を払しょくするほどに後輩メンバーが成長し、道重さゆみを支えたのだ。それでこそモーニング娘。である。
しかし、それと同時に、つんく♂のブログを見ると、こうも書いてあった。
しかし、彼女曰く「『よし!私、今日もかわいいぞ!』というコメントがギャグ化する前に、
リアルにかわいいうちに卒業したいんです。」と。
そして「グループが盛り上がってきている『今』卒業したいんです。」という彼女なりの美学もありました。
モーニング娘。’14 道重さゆみ 卒業に関して|つんく♂オフィシャルブログ 「つんブロ♂芸能コース」 powered by アメブロ
実はこれを文字で見た時は私も「私かわいい」という自分のキャラに殉じるための対外的コメントなのかな、と思っていた。
しかし今日、番組で真顔でその理由を語り、「鏡を見るたびに考えていた」と言っていた道重さゆみを見て、これも相当大き気なウエイトを占める理由だったのだと悟った。それはちょうど、野球選手や力士が「体力の限界」を理由に惜しまれながら引退する姿に似ている。道重さゆみは、誰よりもロマンチストでありながら、同時に誰よりもリアリストである。その道重さゆみが、自らを「ピークが来た」と判断したのだ。
実は「道重さゆみ卒業表明… なぜ「今」なのか? 」なんていう記事を書いておきながら、ときに「でもせめて年末まで…」とか「12期が入って半年くらい…」などたまに思わないでもなかったが、今日のこの放送を見て私はそれらの考えをすべて捨て去った。
美のアスリートが直感したピーク
美を仕事にする女性にとっての可愛さが、運動を仕事にする男性にとって身体能力が、その少なからぬ部分が若さに支えられていることは厳然たる事実である。
ファンとしては、「もう1,2年はいけるんじゃないか?」と少しでも長い活躍を期待したくなるものだが、本人がピークを過ぎたことを悟ったとしたら、外野がどうこう言える問題ではない。例え可愛さや強さが衰えていくとしても、無様な姿を晒してもいいから現役を続けて欲しい、そんなことを望む権利は誰にもない。K-1の魔娑斗のように優勝年に最強のままピークで引退するのも美学なら、キング・カズのように生涯現役を貫くのも美学。そこにファンが口を挟む余地はない。彼女の美学は、「私かわいい!」がギャグ化することを良しとしない。
道重さゆみは、自らがアイドルのピークを迎えていることを直感した。毎日誰よりも大きな鏡を見て「私かわいい」と確認し続けたその人が決めたことを、誰に覆せるだろうか。
すでに道重さゆみ卒業の舞台は決定している。
モーニング娘。’14コンサートツアー秋 GIVE ME MORE LOVE。
さゆはきっと、11月26日の横浜アリーナ最終公演にその可愛さのピークをもってきて、「GIVE ME MORE LOVE」と手を差し伸べる私達に、最後の愛を分け与えてくれることだろう。