モーニング娘。’14 アルバム『14章~The message~』全曲レビュー 「時空を超えるメッセージ」

モーニング娘。’14待望のニューアルバムが発売された。14枚目となった本作は、最後の6期メンバーにして偉大なるリーダー、道重さゆみの最終参加アルバムであり、11期メンバー小田さくらの初参加アルバムでもある。

そしてこの作品は、間違いなく後世に「名盤」として語り継がれるであろうマスターピースといって過言ではない。
最新シングル『TIKI BUN』のアルバムアレンジで幕を開ける『14章』は、シングル6曲、オリジナル6曲で構成されている。この構成と展開も実に良く出来ていて、緩急のバランスとアレンジの妙、そしてツボを突いたつんく♂メロディに身を任せているうちに、あっという間に最終曲の『時空を超え宇宙を超え』になっている。一つのコンセプト・アルバムとして制作された作品のような印象すら受ける。

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オリジナル曲を含めた、全体のアベレージの高さも特筆すべき特徴だ。これは筆者がせっかちなだけかもしれないが、日頃アルバム作品を聞く際、全体の中にはどうしてもあまり好みに合わず、飛ばしてしまう曲が存在するものだ。ところが、この『14章』は、飛ばす曲が全くない。最初から最後まで、レコードの針を落としたがごとくノンストップで聞けてしまうほど、平均的な楽曲の質が高い。

それでは、アルバム収録曲を、オリジナル曲を中心に1曲ずつ聴いてみよう。

アルバム『14章~The message~』全曲レビュー

M1『TIKI BUN (Album Version)』は、シングルVersionとは違い、イントロに前奏が入り、間奏や後半のサビのブレイクなど、細かいアレンジの違いがある。楽曲単体の完成度としては、正直言ってSingle Versionの方が間違いなく高いが、アルバムの1曲めとして「Overture」の要素を加味していることに気づくと、このアレンジと曲順の重要性は動かしがたいことが分かる。
M2『Password is 0』はAUのタイアップCMで使われた楽曲。性急なリズムとチープ感は2番打者にふさわしい。
M3『明日を作るのは君』はアルバムオリジナルのバラード系楽曲。メンバーからも「しっとり聞ける」として人気の高い一曲だ。柔らかなストリングスとピアノで主導され、最初に3音を投げかけてその後に空白をあけて1音ずつつないでいく、つんく♂おなじみの作曲手法がうまくハマっている。詩世界は、思い通りに笑えない「君」に対するメッセージ性の強い応援歌になっている。
M4『キラリと光る星』は、鞘師里保・小田さくらの歌唱2トップメンバーによるデュエット曲。この二人は以前にもシングルのカップリング(『大好きだから絶対に許さない』)でも複雑なハモりのデュエットを聞かせているが、この曲ではユニゾンを基調としてストレートな作りだ。これまで時に高音で息苦しさを感じさせる部分もあった鞘師の歌が、ここにきてひとつ壁を超えたような伸びやかなボーカルを響かせている。パートナーの小田も、一気に声年齢を5歳くらい大人にしたような、これまでに使ったことのない深い声で楽曲をさらにリードし、新境地に挑んでいる。
M5『恋人には絶対に知られたくない真実』はつんく♂お得意の、「女子ソング」。道重さゆみ、譜久村聖、飯窪春菜のリーダー+サブリーダートリオが、付き合い始めのウキウキした気分を歌っている。レトロフューチャー系のピコピコとした電子音と、道重のウィスパーボイスが、恋に浮かれる気分と不安な気持ちをうまく表現している。
M6『What is LOVE?』は、ファンに人気の高いシャッフルロカビリーEDMナンバー。ここでアルバムは折り返し点を迎える。
M7『私は私なんだ』は、アルバムの中盤にあって、この12曲の中にあるとそれほど目立たない楽曲だろうが、間違いなくこのアルバムを象徴する最重要曲である。1番の歌い出しは「誰もが子供であった事 忘れちゃいないかい? 夢中で遊んで日が暮れて 寂しく帰った」、2番の歌い出しは「本当の初恋の事を覚えているかい? 記憶に残るその恋が初恋だろうか」と来る。ここまで聞き手の人生と記憶に手を差し込んでくるアイドルソングがこれまでにあっただろうか? 流れていく時と色を変える季節、そして自分の肉体と子供たちや娘。達を見つめるつんく♂の透徹した視線を感じざるを得ない問題作。
M8『笑えない話』は、ノリの良いラテン系テクノEDM。元気な男性ラップが入っているが、これはつんく♂ではなく、『恋愛レボリューション21』でお馴染みUMEDY氏によるもの。(でもなんかつんく♂さんがノリノリで歌ってる姿が浮かんじゃうんだよね)
M9『笑顔の君は太陽さ』のどこまでも優しく大らかな世界観は、こうしてアルバムの後半で実に生きる。
M10『君の代わりは居やしない』は、オリンピックの選手壮行会のために作られた曲。選手団を鼓舞するために作った曲とあって、いつ聞いても非常に「アガる」曲展開となっている。
M11『大人になれば 大人になれる』は生田衣梨奈、鈴木香音、石田亜佑美、佐藤優樹、工藤遥ら、によるデジタルロック。電子音と同時にエレキギターも大きくフィーチャーされ、トラックも電子音ながらドラムパターンは完全にハードロックのそれだ。ここまでやるなら生バンドでやったほうが格好良いような気もするが、「EDMのバリエーションとしてのロック」という部分に拘りがあったのかもしれない。
そして最終局、M12『時空を超え 宇宙を超え』が、ここまでアゲアゲのEDMで盛り上げてきた聴衆の興奮を優しくチルアウトさせていく。この曲こそアルバムを締めくくるにふさわしい、まさにこの『14章』、道重さゆみリーダー時代の終わりの1ページを飾る楽曲だ。

つんく♂の「メッセージ」

アルバムタイトル『14章~The message~』に表象されるように、このアルバムの収録曲は非常にメッセージ性が強い。つんく♂は、以前にもインタビュー(『SPA!』)で、「お祭りソングを作る気はない。これからはもっとメッセージ性の強い楽曲を作っていく」と宣言したことがある。
それは例えば『恋愛ハンター』のように、「どんな場面でも逃げない 立場なんて関係ない」と宣言するような一種のアジテーションソングとして現れていたが、それでも「恋のタイミング逃さない」と続けるなどして、「恋愛」を隠れ蓑としてテーマにする「節度」は持っていた。
しかし、ここへ来て、つんく♂の作る曲のメッセージ性はさらに先鋭化している。もはや「恋愛」を隠れ蓑にすることもなく、ストレートに思想やメッセージを語る楽曲がこのアルバムには収録されている。そして、それらメッセージ性の強い楽曲群を一つの作品として、つんく♂はモーニング娘。に、私たちに、何を伝えようとしているのか? それは各自が受け取り、自分なりの答えを見出して欲しい。
このアルバムは、まさにつんく♂がモーニング娘。に仮託した、次代に伝える12篇のメッセージなのだ。

最後に、常に加入と卒業とを繰り返すモーニング娘。にとっては珍しいことではないが、このアルバムは10人構成で出す最初にして最後の作品でもあることを強調しておきたい。奇しくもアルバムのタイトル(枚数)と、グループに付けた年号が一致した本作品は、まさに道重さゆみを筆頭に駆け抜けた2013年~2014年を象徴する記念碑的作品といえるだろう。

(文=宮元 望太郎)

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